砂子明神7代たたり物語

(秋田県)

(以下の物語は、きびきびした方言独得の美しさ、味わいがあるため、
試みとして会話以外でも出来る限り方言を取り入れてみます)

田沢湖町、生保内公園のつつじ写真
田沢湖町、生保内公園のつつじ(田沢湖町観光商工課提供)
1万本もの自生レンゲツツジの名所

この田沢湖町立公民館からちょっと上[かみ]に行ったところの話だ。
そこに代々猟師で槍の名人だった徳左衛門という男がいた。

あるとき、川サ雑魚[ざっこ]取りに出かけたわけだ。
わっぱサ、まま(ご飯)詰めて、ズーッと川の上[かみ]さ上って行った。

見晴らしのきくところはないかな、

とあちこち見たところば、大した家が見えたぞ。

おや~、その家の後ろに高い岩がひとつある。

その岩に登って、川の淵を覗くと、
な~んと魚がいっぱい居たぞ~の。

(耳で聞く秋田弁は、語尾が“居たぞ~の”に聞こえましたね)

“よおし、コレ取っていこうかな”

と、なんともうれしくなってきた。
その前にひと休みして、わっぱのまま(飯)、食ったぞ~の。
座って魚見ていると、とろとろっとねぶたくなって、
徳左衛門、なんとなく寝ちまったわけだ。

「徳さま、危ない!」

誰かの金切り声に、はっと目を覚ました。

川の淵さ、真っ赤で横に縞のあるもの、水に写って見えるわけだ。

「おや、何だべ?」

と、下を見とったが何もねくて、ふと大岩の上を仰ぐと、
上からかぶさるようにヤマカカシがひゅーっと鎌首をもたげて、
自分を狙っていた。

徳左衛門、どてんして(驚いて)、ヤスで鎌首を横なぎに払った。
ヘビは反対側からびゃっと来るわけだな。
徳じ(徳左衛門)もヘビも命がけ。

したば徳左衛門、猟師やっているし、槍もうまいもんだってや。
徳左衛門狙って何度も襲ってくるが、狙いすましてヘビの喉めがけて、
ヤスをぐわっと向こうへやったば、
喉首にざ~っと刺さったぞ~の。

へびは、苦しがってめちゃくちゃに暴れ、ぐぐぐっと引き込もうとするが、
徳左衛門、ここで手を放しちまえば大変だ、と
有りったけの力で踏んばった。

手応えががくっとなくなった時、ヘビは力尽きて、
川の中に落ちて沈んだわけだな。

(この辺の迫真性は、口で話す昔話の凄いところです。
もし映像ならばリアルさ、恐ろしさだけが先にたって突出するでしょう。
スーちゃんは、なぜか映画「ジュラシックパーク」の恐竜、ディロフォサウルスでしたか・・・に、吐く息も真近く、追い回わされる場面を思い出してしまいました)

「さ~あ、えがったな(よかったな)

と、思ったのも束の間、
今の今まで晴れていだった(いた)空が急に荒れだした。

それこそバケツの底をひっくり返したような、大雨が降ってきた。
徳左衛門、逃げる暇も何もにゃ、山の斜面サ、這って逃げたんだ。
わっぱも何も、みんな流しちまって、
一晩そこで、寝ねえで過ごしたわけだ。

次の朝まになって、水も引いたと思って山から降りて、
川端、ずうっと歩いて来たば、な~んと大きなヘビ、
死んでいたわけだな。
よく見ると自分にかかってきたヤツだ。

“おや~、これなば大変だったなや”

と思い、家に戻ろうとしたところ、
隣のじさ、縄を持って川を登ってきたわけだ。

“じさ、昨日おらが呑まれそうになったヘビ、見に行がねか”

と連れて行った。

隣のじさは、驚いて

「おら、生まれてからこんな大きなヘビ、見たことねど」。

二人は(村の)みんなに見へてえもんだな」と相談して、
じさの持っていた縄でヘビを縛った。
ちょうど側にあった(稲をかける)ハサさ、掛けて測ってみたぞ。
したば、7ハサあるけソ“7ハサってば、7x5尺=35尺”とのコメントあり。
スーちゃんは11m55センチね、と、計算してびっくりした)

“な~んと、これなば大したもんだ”

それほどのヘビだったわけだ。

今度は、村さ戻って来て、隣近所の人、みんな引っ張って見に行った。
“な~んと、大きなヘビだぞ”って。
そのままさらして置くと腐るんで、土に埋めたんだと。

半月ばかり経ったところが・・・
徳じは急に熱出して、何が何だかわからねえうちに、
はあ~、ポンと死んじまった。

おやっ、不思議なこともあるもんだな、とうわさしているうちに、
今度はかかも死んじまったぞ。
何としたもんだで~。

そうやっているうちに、息子、山で事故に遭って死んじまったぞ。

“これなば、大変だぞ”って、神様にお伺いをたててもらったわけだ。
したば、神様言うには、

「おれは、砂子で殺されたヘビだども、
罪のにゃあ(無い)徳左衛門、呑もうとしたど(したのは)、おれ悪し。
殺されたことは、おら、恨まねえども、殺してから一週間も、ハサさ、
掛けてさらしものにされたことは、おれにとって、
実になさけないことなっす、
この恨み、7代7流れまでたたってやる~ウ」 と。

この恨みは絶対に忘れねえ、7代7流れを忘れるな、
とそういうわけだな。

(7流れは、一家拳族というほどの意味だそうです。ひどいことになりました)

そいで、皆、どてんして、
ヘビのいた所に明神様を建ててまつったぞ~の。
建てて一週間したば、水が出て流れちまう。
何回建てても流れちまうぞ。

そいでちょこっと川下の堤の上さ、お堂建てて、
砂子明神としてまつったども、
徳左衛門の家、不幸続きになったわけだ。
年寄った母親が死に、角館から連れ戻した娘、それも死んじまった。
とうとうその家は跡取りが居ねくなった。

その家屋敷を買って住んだ人達、それまでもたたられた。
皆、変なふうに死んじまうんだ。
首吊りして自殺したり、船さ乗っていた者、波(が)さらって
行方不明になって居ねぐなってしまった。

その家も誰も居ねぐなった。

どこまでたたれば気がすむか、この砂子明神は!

他の明神様なば、金授かるようにといって拝むだども、
ここだけはたたりをねくしてけれ、と拝む明神様だ。
皆に気味悪がられている明神様だと。

はい、とっぴんぱらりのプー
田沢湖町、抱返り渓谷の秋写真
田沢湖町、抱返り渓谷の秋(藤原健氏撮影、田沢湖町観光商工課提供)
田沢湖町と角館町にまたがっている渓谷で紅葉の名所。
昔、道が狭く通るのが大変で、互いに抱き合ってすれ違ったことからこの名がついた。

スーちゃんのコメント



【語り部】 佐藤忠冶氏(1928年1月3日生まれ)
【取材日】 2003年4月27日
【場 所】 田沢湖町立図書館
【取 材】 藤井和子、黒沢せいこ氏(横手市)
【方言指導】 佐々木一生氏(秋田県東京事務所)

明神様から、“7代たたってやる”と、
恐ろしいお告げがありましたが、
その後、どうなったのでしょうか。
大きな商売をしていた最後の家が断絶してから、
まだ35年しか経っていない、
まだまだ、7代になっていないそうです。

「信じるものは救われる」という格言がありますが、
この話は「信じる者は、どこまでも救いがない」
言っているのです。

ネガティブな話の持つエネルギーは、
閉ざされた一定の地域では、
何代も伝わって行くかもしれないし、
この話は近い過去に起こったことなので
伝説化していない分、
恐怖の衣をまとっているのでしょうか。

なお、“ヤマカカシ”とは、
山の田んぼにノホホンと立っている
“山田の中の一本足の案山子[かかし]のことではありません。
赤と黄色の斑になった毒蛇だそうです。
若いヤツは黄色が強いこと、
いまだに、ワクチンがないということ。
・・・そうなのですか? 
分かる人、ぜひ教えて下さい。
“ヤマカカシ”に噛まれた人が、
病院にかつぎ込まれるのを見た人の話では、
身体中、気味の悪い赤と黄色の斑になっていたそうです。

佐々木氏には、何回かに分けて、
佐藤氏の語るテ-プを聞いてもらい、
聞き取れていない秋田弁を指導して頂いた。

佐々木一生氏写真
テ-プを聞く佐々木一生氏
撮影:藤井和子

自分が発音出来ないことばは聞きわけることができない、とは、
日本人がRとLを区別し辛い例として、
初級英語の本に書いています。
関西弁を母国語とするスーちゃんがはがゆいほど
正確に聞き取れない秋田の言葉を、楽々聞き分けるのは、
秋田弁を母国語とする佐々木さんならではでした。
ここに記して感謝のことばとさせて頂きます。

スーちゃんから皆様へ特にお願い

方言採用の可否等、感想を頂ければうれしく思います。

例:
  • (方言の方が)より理解できる。
  • 止めてくれ <理由        >
  • どっちでもいいよ
 あなたは
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