才津川の小豆とぎとぎ

(秋田県)

むかし、あるところにお寺があったけど。

その寺の坊さんな、生活が苦しくて盗みを働いたんだ。
お上に挙げられて、逃げ回った末に盛岡まで逃げて行った。
ここで捕まって、4月1日になって秋田に呼び戻されて、
才津川[さいつがわ]の川端ではりつけになったらしい。

それからあと、坊さんを埋めた塚のあたりから、
火玉、ぶわっと出てきて、
いつまでもふわふわ浮くようになった。
その塚の後ろに流れている川、夜になれば
サラサラサラ、サラサラサラっていう
小豆とぎの音が聞こえるようになった。

そこを通りかかると、通る人の後ろに来て、
サラサラサラって音がするんだな。
ますます小豆とぐ音も高くなってくる。

気の弱い人は驚いて腰抜かしちまって川端にぴたっと座りこんだり、
ようようの思いで這いながら逃げる人もいた。
今度は、左だか右の方から
サラサラサラ、サラサラサラって音が来るわけだな。

何ともおっかなくて、
川から何とか這いあがって川底を見ても何も無い。
夜には誰もそこを歩く人は居なくなって、
今だに夜になればなるべく歩かないようにしてるんだと。

はい、とっぴんぱらりのプー

スーちゃんのコメント



【語り部】 佐藤忠冶氏(1928年1月3日生まれ)
【取材日】 2003年4月27日
【場 所】 田沢湖町立公民館
【取 材】 藤井和子、黒沢せいこ氏(横手市)
【方言指導】 佐々木一生氏(秋田県東京事務所)

佐藤さんは、子供の頃にこの話を
お母さんから聞いたそうです。
小豆をとぐさらさらさらという擬音と、
川の流れるサラサラサラという音をからめている昔話です。

また才津川は、田沢湖町では、
“さずけ”とも呼ばれているそうです。
“小豆”“ささげ”は違う豆ですから、
“さずけ”“ささげ”とは関係ありません。
もう頭がごちゃごちゃになっちゃいますね。

小豆とぎとぎの妖怪像(鳥取県境港市)写真
小豆とぎとぎの妖怪像(鳥取県境港市)
撮影/藤井和子

小豆とぎの話は「小豆ごしょごしょ」
(鳥取県用瀬町、話者は小松善則氏)として
このサイトで公開中です。
なお、写真を見た孫娘に当たる方から初めてメイルを頂き、
小松氏は数年前、病没のよし。
謹んでお悔やみ申し上げます。

夜になると小豆をとぐ音が聞こえ始めるものの
実際は何もいないこと、夜まで遊んではいけないこと等、
いくつかの点で共通しています。

昔話は、同じ内容の話が
全国のあちこちに広範に伝わっていればいるほど、
話の起源が古いと言ったのは
柳田国男でしたか。