面箱石の化物

(秋田県)

次のお話は、
“この公民館から、車で20分ぐれえのところに行けばよ~、
面箱石という石があるんだよ”
と、佐藤さんが口火を切って、語り始めた伝説です。

田沢湖町の春の雪写真
皆が驚いた田沢湖町の春の雪(2004年4月25日朝)

昔、翁の面を被った化物が毎晩、村さ来て、踊り歩いた。
夜が明けると、山さ帰って行く。
村の人達は

「音、立てねえで、踊ってら」

「悪いことしねえども、一晩中踊って、気味悪[わり]い」

「翁の面、被ってら」

と口々に噂をした。

あるとき、若[わけ]え者達が、化物の後をこっそりつけて行った。

院内の大蔵観音へ行く道をスタスタと駈けあがって行く。
被っていた翁の面を縦長の石の箱、今では翁石と呼んでいる、
に入れるや、すうっと空の彼方に飛んで行った。

「この箱さ開けて、面持って帰ろ」

「いや、おら要らねえ」

となかなか相談がまとまらない。
第一、石の箱はクソ重くてとても蓋を開けられない。

「よし、開かねえようにするべ」

と年かさの若え者が言ったので、
石の箱に大岩をのせて村に帰った。

その晩から翁面の化物は村に出てこなくなった。

これが、面箱石の由来です。

はい、とっぴんぱらりのプー
面箱石写真
面箱石(「ふるさと散策」、佐藤忠冶著、2002年刊、p88所収)

スーちゃんのコメント



【語り部】 佐藤忠冶氏(1928年1月3日生まれ)
【取材日】 2003年4月27日
【場 所】 田沢湖町立公民館
【取 材】 藤井和子、黒沢せいこ氏(横手市)

この化物は一体、何だったのでしょうか。
佐藤さんによると、河童だったか、
のっぺらぼうだったか分からないが、
いろいろ言われているとのことです。

幼女に似て、祖父の膝にだっこされた頃のスーちゃんそのまま、
好奇心でウズウズしてきたスージーは、
佐藤さんに聞きましたね。

 「まだ、その面、あるの?」

「何とか、よへて取り出すべ(他のものを手前に寄せて奥から)
...あはは」

佐藤の爺っちゃは、心からおかしそうに笑いました。

地図を説明している佐藤忠治氏の写真
地図を説明する佐藤忠治氏

この化物は、伴奏も無く踊る姿を
村人に見せていることが特異です。
見た人に災厄を与えることもなく、予言もせず、
どういう目的で村に現れたのか、
いや目的なぞなくて、踊ることが楽しくて
一晩中踊っていたのかもしれません。

沖縄に香水幽霊の話がありますが、
「踊る化物」も不思議な話です。